誰も知らない彼女
第1章

クラスメイト


夕暮れが美しく感じる9月、ザワザワと騒いでいる教室で。


昼休みのこの時間、私は向かい合わせに座っている親友、八戸 由良(はちのへ ゆら)に視線を向けた。


「今日はいちだんと騒がしいね」


紙パックのジュースを手に持ちながらもう片方の手でストローをまわす。


由良も「う〜ん……」とつぶやきながら眉間にシワを寄せている。


この教室が耳をふさぎたくなるほど騒がしい理由を、私と由良は知っている。


廊下側から2列目の一番前の席にいるひとりの女子生徒がクラスメイトの大半に囲まれているから。


満面の笑みを浮かべて頬を赤く染めているその女子を恨めしそうに見つめる由良。


「……ふん、ちょっと頭がいいだけじゃんか。大袈裟すぎだっつーの」


朝から由良の機嫌は悪かった。


定期テストがある時期になると、由良はパニック状態になると同時にその女子に向ける視線を鋭くさせるのだ。


今月はまさにテストシーズンであり、今日はいくつかのテストが返ってくる日だ。


「ははっ……」


私は苦笑いを浮かべるしかない。


彼女を恨めしく思っているのは由良だけではないけど、彼女のことを心の底から悪く言うことができない。


私は恨めしいというより逆に羨ましいと思う。


クラスメイトの大半に囲まれるなんて、めったにないことだし。
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