誰も知らない彼女
「そうだって〜。私だって抹里ちゃんが傷ついてるの見るだけでムカつくもん! あ〜、思い出すだけで腹が立ってきた!」


由良と秋帆以外のふたりも、相当大袈裟なことを思っていたみたい。


なんか私、守られてる?


べつに無理して私のこと守らなくてもいいのに。


なんて言うこともできず、「えぇっ……」と気弱な声を漏らす。


そんな私などスルーして、私以外の全員が若葉の悪口を言い合う。


「朝丘さんって普段おとなしいけど、本当は私たちのことバカにしてるんじゃない?」


おかしそうに笑う女子のひとり。


「あっ、それ思った。これだから清純派女子って嫌なんだよね」


腕を組んで強くうなずく由良。


「裏表がよさそうだって言われるやつはだいたい、いい人の仮面をかぶってるってなんかの本に載ってたよ」


コソコソと内緒話をするように、声のボリュームを下げる秋帆。


「まさに、猫かぶってるってやつね」


「そうそう〜」


もうひとりの女子の言葉にうなずく秋帆。


ポカーン。


私が呆然としているにもかかわらず、全員の口から悪口が止まらない。


また若葉サイドの女子に睨まれるんじゃないかと思い、チラッとそちらに視線を向けるも、なにかを言ってくる様子はない。


若葉本人も私の視線に全然気づいておらず、自分を囲んでいる女子たちとの会話に夢中になっている。


また言い争いがはじまるかもしれない。


由良たちが会話に夢中になっている間に席を立ち、飲み終わったジュースが入っていた紙パックをゴミ箱に投げ入れ、その場をあとにした。
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