誰も知らない彼女
「マジか。朝丘が暴れたのってただの噂なんじゃないかと思ったけど、本当だったんだな……」


「気持ち悪……」


「朝丘さんがこんなに叫んだところ、初めて見たから想像してなかったけど、やばい」


自分たちの想像をはるかに超えていると思ったのか、つぶやきを残したクラスメイトは若葉から少し距離を置いた。


それでも若葉の声は終わらなかった。


「やめて……もうやめて……。私はもう終わったの、死んじゃうのよ……。私の味方なんてもう誰もいないのよ……」


目をこれほどかというくらいに大きく見開いて、涙目でへたり込む若葉。


若葉の目からは滝のような涙があふれており、それがいびつな水玉模様となって床にポタポタとこぼれ落ちる。


「ちょっと朝丘、勝手に終わったとか死んだとか言わないでくれる? あっ、でも朝丘が人として終わってるのは事実か」


「あはっ、秋帆ってば言いすぎ〜」


「でもさ、由良だって笑ってんじゃん」


「それは否定しないけどね」


「も〜、由良も人のこと言えないでしょ」


ずっしりと重い空気に支配されている教室なんてまったく気にする様子もなく、秋帆と由良が笑い合っている。


ふたりは若葉のことを完全におもしろがっているよね。


普段の私ならここで若葉に近づけるはずなのに、若葉が暴れたときのことがよみがえって、なかなか近づけない。


無意識に作った握り拳に力をグッと入れた直後、ガラッと教室のドアが開いた。
< 105 / 404 >

この作品をシェア

pagetop