誰も知らない彼女
そっか。


今日から数日間はテスト期間だから、各教科の先生が紙の束を持って入ってくるんだ。


私の予想どおり、教室に数学担当の先生が静かに入ってきた。


クラスメイトたちは先生の姿を視界にとらえるなり、慌てて席に戻っていった。


私の前の席に座った由良と、私の隣の席に座ったいっちゃんが、泣きながら席に戻っていく若葉の姿を見てクスクス笑っていた。


「由良、やるねぇ」


「そんなことないよ。私はただほんとのことを言っただけだし」


ふたりの表情がおかしいことにすぐに気づき、目をそらして伏せた。


由良といっちゃんが、まるで本物の悪魔に取り憑かれたような感じがした。


だけど、私が感じたのはそれだけではなくて。


前の席でずっと泣いている若葉の背後にもなにか邪悪な幽霊が取り憑いてる気がしたのだ。


「…………っ」


怖い。


私の周りにいる仲間たちが怖い。


ゾゾッと寒気に襲われて両腕をさする。


今は……今だけは、この嫌な予感のことを考えないようにしないと。


私まで若葉みたいに頭がおかしくなる。


もしかしたら私も、もう狂いはじめているのかもしれない。


体が震えている間に、先生の声が聞こえた。


「はい。じゃあ今から問題用紙と解答用紙を配る。授業開始のチャイムが鳴るまでは絶対に開けないように」
< 106 / 404 >

この作品をシェア

pagetop