誰も知らない彼女
はっと我に返った。


私がバッと顔と目線をあげたときには、もう問題用紙と解答用紙が届いていた。


しまった。


若葉のことが頭から離れなかったせいか、机の上を片づけてなかった。


先生にバレないように、急いで置いていたものをすべてカバンの中にしまう。


その姿を、私に問題用紙と解答用紙をまわした由良に見られた。


「抹里、急げ。先生にバレちゃうぞ」


由良の言葉を軽くスルーして、机の中にしまっていたペンケースを置き、中からシャーペンと消しゴムを取りだした。


急いで準備をしたおかげか、先生にはバレなかったようだ。


ふぅ、助かった。


もし見られていたら、クラスメイト全員の前で怒られるところだった。


胸を撫でおろしたと同時に、授業開始のチャイムが鳴った。


「はい。じゃあ、はじめ!」


先生の声で、全員がシャーペンを手に取って紙を開いた。


私も同じタイミングで2枚の紙を手に取り、問題用紙を見はじめた。


ただこのテストが終わるまでに、体育のときに感じた痛い視線に気づかないフリをしながら、私はサラサラと書いていった。
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