誰も知らない彼女
『取ってよかった』。


それに『バチが当たる』。


前までの私なら『そんなことはべつに考えてないけど』って言うけど……なぜだろう。


今は学年トップの成績を取ってよかったと心の底から思っている自分がいる。


もしかしたら、本当に私も若葉に狂わされているのかもしれない。


なんて思ったところで、秋帆たちが私たちのもとに歩み寄った。


「……ねぇ、朝丘ってまだあんな状態なの? 私、正直ウンザリしてんだけど」


コソッと私たちにわざと聞かせるかのようにつぶやく秋帆。


まだあんな状態なのかどうか。


そのことを若葉本人に聞いても、ちゃんとした答えが返ってこない可能性が高い。


だけど本人に聞かなくても、表情や言動で若葉の今の精神状態がわかるはずだ。


私は若葉じゃないからよくわからないけど。


当の本人じゃないとわからないことだらけだし。


「朝丘さん、相当きてると思うよ。顔を見ただけで完全に狂ってるのがわかる」


心の中ではそんなことを思ってないのに、つい口に出してしまった。


『相当きてる』。


私は人生でこの言葉を言ったことが一度もない。
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