誰も知らない彼女
しかし、そんなことを考えている私をスルーして、由良たちがしゃべりだす。


「あー、たしかに。顔見れば、今の朝丘がどんな状態かよくわかるわぁ」


「さすがだね、抹里。そんなことに気づくなんて、やっぱ賢いわ」


腕を組んで納得したように首を何度も上下に動かす由良に、嫌味などまったく感じられない満面の笑みを浮かべる秋帆。


言葉には出していないが、ネネとえるといっちゃんも由良と同じ反応を見せている。


今のは若葉に聞こえないようにしゃべったから、たぶん若葉には聞こえていないと思うんだけど。


不安に思って若葉のほうをチラッと見てみた。


えっ……⁉︎


予想外の展開に頭が混乱してしまう。


なんと若葉が私にしがみつくように、私の腕をギュッと掴んでいたのだ。


「あ、朝丘……さん……?」


体がガタガタと震えるのを覚えながらなんとか言葉をしぼりだすと、若葉が目を見開いた。


ひっ……!


「なんで……なんで榎本さんが成績トップの座を奪ったの⁉︎ そのポジションは絶対に私のはずなのに! なんで⁉︎ 許せない許せない許せない許せない!」


まるでなにかの呪文を唱えている感じで一方的にしゃべる若葉に、恐怖を覚えてしまう。
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