誰も知らない彼女
若葉が私の腕にしがみつきながら叫んだことで、他の生徒たちがザワザワと騒ぎはじめた。


もちろん、由良たちも例外ではない。


「うわっ……。朝丘、気持ち悪……」


「キモすぎ。早く抹里から離れてくんないのかな」


「あそこまでしがみつくなんて……」


「榎本さんの腕を掴む朝丘さん、怖……」


「そんな顔で抹里ちゃんのこと見ないでほしいんだけど……」


由良たちは若葉を視界に映しながらも、私から若葉の手を離そうとはしなかった。


仕方ない。こうなったら……。


誰も私から若葉を引きはがさないなら、私が自分から引きはがす!


「ひどいひどいひどい! 榎本さんはひどい! 今までの私のポジションを奪い取ったんだ! 絶対に許せな……」


「いいかげんにして‼︎」


目を見開いたまま思ったことを叫び続ける若葉の言葉を無理やりに止めて、思いっきり叫んだ。


若葉の声のボリュームに比べたら小さいかもしれないけど、それでも私は若葉を止めたかった。


私がはじめて若葉に強い口調で言葉をぶつけることにびっくりしたらしい他の生徒たちが、目を点にしてこちらを見た。


ゼェゼェと必要のない呼吸を繰り返す私の目に、うるんだ目を向ける若葉の姿がはっきり映る。


そんな若葉に、私は話を続けた。
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