誰も知らない彼女
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電話がかかってから数十分後。
言われたとおりに昇降口でカバンを持ちながら待っていると、校舎前に見覚えのある人影が見えた。
磐波さんだ。
ほっとひと安心して彼のもとに駆け寄る。
「磐波さん……!」
「あっ、抹里ちゃん……」
私を呼んだ張本人が、私の登場に目を見開いてびっくりしている。
私が本当に来てくれるとは思っていなかったのだろう。
私が磐波さんの立場だったら、間違いなく同じ言動を見せると思うし。
心の中でそうつぶやいた直後、磐波さんの顔が突然真っ青になった。
「あ……朝丘若葉……朝丘若葉は連れてきてないよね……?」
どうやら磐波さんは、若葉が私の近くにいないかどうかを考えていたらしい。
なぜ彼が若葉に対して恐怖を抱いているのかいまだにわからないけど、若葉を連れてきたら厄介なことになると思ったので、彼の言うとおりにした。
「……? はい。朝丘さんは連れてきてませんよ?」
首をかしげながらもそう答える。
私が若葉を連れてこなかったのは磐波さんのためだけではなく、彼女の精神状態に異常をきたすかもしれないと思ったのもある。
どちらにせよ、私が若葉を連れてこないという選択をすることに変わりはなかった。
内心安堵している。