誰も知らない彼女
それがなにに対する笑い声なのかまだわからないにもかかわらず、顔が耳までボッと真っ赤になるのを感じた。


恥ずかしい。


自分のなにに対して恥ずかしいと思ったのかわからなくて、私の心もグシャグシャしている。


「ははっ。抹里ちゃん、おもしろいね。こんなに笑ったのは久しぶりだよ」


「うぅ、私のなにに対して笑ってるんですか……」


近くから見れば、私たちが恋人同士だと誰もが思うだろう。


そう見えてもおかしくないはずなのに、納得がいかない。


磐波さんに笑われたせいだろう。


袖の中に手を少しだけ隠し、スカートの裾をギュッと引っ張る。


磐波さんの笑いに対する対応は他にもあったかもしれないけど、恥ずかしいと感じたと同時に無意識に動いてしまったのだ。


うぅ、なんか磐波さんに負けた感じだ。


顔をうつむかせながらそう思っていると、ポンポンと優しく頭を撫でられた。


「あはは、ごめんごめん。抹里ちゃんがそんなに顔を真っ赤にするなんて可愛いなぁって思ったから、思わず笑っちゃった」


彼の口から言い放たれたその言葉が、私の耳の中に入っていき、そして脳内で何度も再生された。


『顔を真っ赤にするなんて』


違う、私が気になったひとことはそれじゃない。


『可愛いなぁって思った』
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