誰も知らない彼女
あぁこれだ、このセリフだ。


笑いながらそう言った磐波さんに疑問を抱く。


なんで笑っているときに、さらっと『可愛い』って言えるの?


笑顔で『可愛い』って言うのは、好きな女の子の前でしか言わないんじゃないの?


恋愛未経験の私にはそのへんのことはよくわからないけど、たぶんそうだと思う。


疑問に感じている私に気づいていないのか、磐波さんはゆっくりと私の頭から手を離したあと、さらに口角を上げて私の手を掴んで歩きだした。


いろいろと考えているせいで、磐波さんのペースにまったくついていけない。


でも、いっか。


今抱いている問題がスッキリと解けなくても、答えはいつかやってくる。


知らないほうがいいと思いこともある。


とにかく今は、磐波さんと一緒に、行方不明になった野々村さんと畠さんについての情報を探すことが第一優先だ。


私に笑顔を向けているのも、私をちゃんとひとりの女の子として接しているのも、今は忘れていい。


心の中にいるもうひとりの自分にそう言い聞かせながら、何度も首を上下に振る。


そこからなにを考えていたのかはわからないけど、気がつけば目の前にはファミレスがあった。
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