誰も知らない彼女
いや、まさかね。


ブンブンと首を横に振りながら、心の中のもうひとりの自分にそう言い聞かせる。


ただ聞き覚えのある声が聞こえてきただけだ。


空耳の可能性もあるけど、それが私の知っている人とは限らない。


再びメニュー表に目を向けたそのとき、頭上でその声が大きく響いた。


「あれー? 抹里じゃーん!」


「本当だー! なんで抹里がここにいるの⁉︎」


さっき聞いた声は空耳ではなかった。


声のしたほうにおそるおそる視線を向けると、そこに由良と秋帆がいた。


一緒にいるはずのネネとえるはいない。


ふたりだけでここに来たようだ。


ていうか、ふたりこそなんでここに?


「由良に秋帆……ふたりこそ、どうしてここに来たの?」


そう言ってから、あることに気づいた。


私は磐波さんと一緒にここに来ている。


ふたりには、合コンで磐波さんと知り合ったことを伝えていない。


ふたりが磐波さんを私の彼氏だと勘違いするかもしれない。


慌てて磐波さんの存在をごまかそうとするが、私がそうする前に由良がいち早く気づいた。


「あっ! 抹里の向かい側に座ってる人、めっちゃカッコいい! ねぇ抹里、もしかしてその人と知り合いなの⁉︎」


あぁ、遅かった。
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