誰も知らない彼女
そう思いながらさらに口角を上げると、視界に映る由良の目がうるんだような気がしてびっくりする。


ここでまた泣くのではないか。


でも今いるのは誰もが使う歩道だ。


言うとおりにならなかったときの子供のように泣きわめいたら、嫌でも注目の的になる。


それだけは絶対に避けたい。


平静を装って由良に尋ねる。


「由良……どうしたの?」


また私に怒りをぶつけながら泣くのだろうか。


大声をあげて注目の的になろうとしているのだろうか。


目をしばたたかせた瞬間、由良がいきなりギュッと私に抱きついてきた。


「由良……⁉︎」


歩道で抱きつくなんて予想していなくて、思わず声をあげてしまう。


大声をだすのかと思っていた自分が大声をだしていたことが一番びっくりしたけど。


それにしてもなんで抱きついてきたの?


由良が突然こうした理由を知りたくて、思ったことをそのまま聞いてみる。


「由良、苦しいよ。どうして私に抱きついたの?」


すると、私を強く抱きしめたまま、由良が言葉を詰まらせながらこう答えた。


「だって……秋帆でもそんなこと言ってくれなかったのに……抹里が言ってくれたから……な、なんか、う、嬉しくて……」


そういうことか。
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