誰も知らない彼女
その言葉は空気にかき消されるのかと思いきや、秋帆のそばにいたネネに偶然にも拾われた。


「そうだよね。捕まったら一巻の終わりだもんね。二度と学校生活送れないし、朝丘をいじめることができなくなるし」


運がよかったのか悪かったのか。


なにか言われそうだと思い、ギュッと目をつぶって秋帆たちから距離をとる。


なぜ自分がこのような行動をしたのかわからない。


だけど、無意識のうちにそうしてしまったらしい。


最近、自分自身の行動の意味がわからなくなるときがある。


自分のことは自分自身が一番わかっているはずなのに、自分にこれからなにかが起こりそうな気がしてならない。


「えっ、警察に捕まったら朝丘さんをいじめることができなくなるの? やだよ〜、絶対に捕まりたくないよ」


「同感ね。ていうかそもそも、私たちってなにか悪いことしたっけ?」


「どうだろ。してないんじゃない?」


「どう考えても私たち、悪いことしてなくない?」


えると秋帆の会話が嫌でも響いてくる。


秋帆たちは、自分たちがおかした罪に気づいていないようだ。


早く気づいてよ。


もし気づけなくても、若葉が再び暴れる前に誰かが言ってあげて。


あなたたちはすでに悪いことをしている。


私のスマホにもう使わなくなった番号が入っていただけで若葉を嫌がらせのターゲットにするのはおかしな話だ。


他の生徒に若葉が騙していると話して自分たちの味方にさせていたし、若葉の持ち物を焼却炉で燃やしたり嘔吐するまで思いっきり彼女の体を蹴ったりしていた。
< 146 / 404 >

この作品をシェア

pagetop