誰も知らない彼女
短気でも人の言うことはちゃんと聞いて、率先して行動する。


そういう人がグループのリーダーに向いているのかもしれない。


私は友達から優しいとは言われるけど、友達が思っているほど優しくはない。


リーダー性のある秋帆よりひどい人間だと自分自身思っている。


心の中で自分を非難しながら、秋帆にさっきまでいっちゃんが泣いていた理由を説明した。


いっちゃんをまた苦しめることになるかもしれないけど、話さなければ解決しない問題もある。


私ひとりだけではこの問題は解決しないので、偶然窓を開けた秋帆に来てもらった。


いつまでも頼りっきりではダメだと思っていても、誰かに助けを求める必要があった。


ものの数分で話し終えたあと、秋帆は眉間にシワを寄せて難しそうな顔をした。


「うーん。いっちゃんの彼氏が、あの雑木林の中で死んでたなんてね……。どうすればいいか私に聞かれても正直困るけど、悲しい出来事は忘れるしかないね」


今まで自分にとって大切な存在を一度も失った経験がないのか、いっちゃんになんて言ってはげませばいいかわからないらしい。


しかし『悲しい出来事は忘れるしかない』という秋帆の言葉が出た途端、いっちゃんが泣き叫んだ。


忘れられるわけがない。


大好きだった自分の恋人を失ったショックは計りしれない。


同じ経験を持った人じゃないと、いっちゃんを落ち着かせることができないのか。


悲しみによる悲痛な叫び声がこの場所を包み、私は秋帆と目を見合わせた。


秋帆はあきらめたように首を小さく左右に振る。


どうすればいいのかわからない。


私たちでもおさえることができないいっちゃんの慟哭に、ただ黙ることしかできなかった。
< 161 / 404 >

この作品をシェア

pagetop