誰も知らない彼女
☆☆☆
放課後。
私は夕日に照らされているオレンジ色の道をひとりで歩いていた。
秋帆たちに『寄り道しながら一緒に帰らない?』と声をかけられたけど、私はその誘いを断った。
同じく秋帆の誘いを断ったいっちゃんに、死体遺棄事件の被害者である男性の情報を聞きだし、なんとか力になりたいと思ったのだ。
そのときのいっちゃんはまだ悲しそうな顔をしていたけど、昼休みが終わるまで泣いたせいか、少しだけ顔色がよくなっていた。
彼女の様子を頭でよみがえらせながら、私は手に持っている小さなメモ用紙に視線を落とした。
メモに書かれてある名前を見てみるが、当然のように聞いたことのない名前。
言われてもピンとこない。
その名前の下には住所と学校からの地図が書かれてあった。
いっちゃんに急いで書いてもらったので多少字は崩れているが、メモがないよりはだいぶマシ。
メモがよれよれになっているのは、書いている途中にいっちゃんが涙を数滴落としたからだろう。
多少持ちにくいけど、書いてと頼んだ以上は文句を言えないので我慢するしかない。
「ふぅ……」
学校を出てから15分がたち、無意識に息をついていると、視界にポツンとたたずむ一軒家がクリアに映った。
「あ……」
その一軒家が見えた瞬間、目をしばたたかせて地図と交互に視線を合わせていた。