誰も知らない彼女
間違いない、被害者の家はここだ。


心の中で力強くそう断言したあと、驚いた女性を軽くスルーして話を続けた。


「私、市加ちゃんの友人の榎本といいます。あなたは川西広隆さんのお母様ですか?」


おだやかな口調で、優しくさとすようにそう問いかける。


トゲのある言葉ばかりをぶつけたら、追いだされるだろう。


私が問いかけたあとしばらく沈黙が続いたので、質問しちゃいけないことを言ってしまったのかなと内心びくびくしてしまう。


だが、私がそう思いはじめてから数秒後、女性は力強くうなずいた。


「……えぇ、私は川西広隆の母親よ」


女性の言葉を聞いてほっと胸を撫でおろした。


しかし今は安心している場合じゃない。


死体遺棄事件についての話を聞くんだ。


「あの……川西さん、先日の事件の話をうかがいたいんですが……」


意を決しておそるおそる問いかけてみるが、川西さんの顔色が一気に悪くなっていくのがわかった。


それほどまでにショックな出来事だったのだろう。


相手の機嫌が悪くなるようなら、あきらめたほうがいいかもしれない。


「あっ、話したくなかったら話さなくていいです。私はただ息子さんが死んだ事件を解決したいと思っているだけなので。それでは……」


「ちょっと待って!」


自分自身が追い出されないうちにささっと帰ろうと背中を向けた直後、うしろからの声で引き止められた。
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