誰も知らない彼女
☆☆☆
「好きなところに座っていいわよ」
川西さんの家にあがり、奥のリビングに通され、ソファに座る。
ふわふわとした感触のソファに違和感を覚えるが、それは友人以外の他人の家のソファに座ったことがないからだと思う。
慣れないソファに座り、周りを見渡してみた。
壁は茶色や黒のシミで少し汚れている。
木製のタンスの上に飾られている写真立てがいくつかあり、そのすべてに目立った外見の男性が写っている。
タンスだけでなく、キャビネットやローテーブルの上にも写真立てがいくつかあった。
それらも同じ男性がセンターとなっているものばかりだった。
気になって立ちあがり、その写真立てに手を伸ばそうとしたとき、お茶の入ったマグカップをふたつ持ってきた川西さんが現れたので慌てて座り直した。
「あっ、す、すみません。飾ってある写真を勝手に取ろうとしちゃって……」
慌てふためく私を見てクスッと笑いながらふたつのマグカップをテーブルに置く川西さん。
勝手なことをしたのに、どうして川西さんは笑っているんだろう。
疑問を抱いていることに気づいたのか、私の表情を見て川西さんはさっと視線をそらした。
「……いえ。そんなに写真立てが飾ってあるなら、誰でも取ってみたくなるものよ。気になったものを取ろうとして謝る人をはじめて見たから、つい笑っちゃって」
そうなんだ。