誰も知らない彼女
そんなの、なにがあっても信じたくない。


小刻みに首を振って体を震わせる私をチラッと見たあと、秋帆が眉をつり上げた。


「はぁ⁉︎ 本当にあんたが犯人なの⁉︎ 冗談のつもりで言ったんだけど……。いっちゃんの彼氏だけじゃなくて私の彼氏をも奪うなんて……最低よ! なにが『おもしろい』よ! 今すぐ私たちの前から消えろよ! もうあんたみたいなゴミクズ人間はこの世界にはいらねぇんだよ‼︎」


一度思っていたことを言葉にしたら止まらない。


今の秋帆の顔と言葉でそう思った。


それに、秋帆の言葉には私が思っていたことがいくつかあった。


“最低”、“なにが『おもしろい』なの”。


私が心の底から言いたかったことを、秋帆は言ってくれた。


腕の痛みは容赦なく襲ってくるけど、それだけで少し心が楽になった。


私の腕が真っ赤に染まりそうになったそのとき。


顔を真っ赤にしていた秋帆が、由良に対していっちゃんの泣き声を通り越すほどの大声で叫んだ。


「早く出てけよ、ブス戸‼︎」


“ブス戸”。


それは、由良の中学時代のあだ名だ。


私は直接聞いたことないけど、由良に嫌悪感を示していた男子がそう言っていたと聞いたことがある。


由良は中学のころ、男子に好かれていなかったらしい。


とくに男子からは忌み嫌われていた。
< 191 / 404 >

この作品をシェア

pagetop