誰も知らない彼女
私の腕の傷を見てギョッと目を見開いた先生は、私の背中を押して保健室に行くよう私をうながした。


自分の腕がそんなに血だらけなのかと疑って見てみると、腕がほぼ真っ赤になっていた。


「だ、誰かについてもらう?」


「いえ、ひとりで行けます。大丈夫です」


『大丈夫です』としっかり言ったはずなのに、なぜか先生の表情は晴れなかった。


先生の表情に疑問を感じたけど、早く止血しないと大変なことになるかもしれないので、そのまま保健室に向かう。


体育館シューズのままで行くが、今は傷から出た血を止めるのが最優先なので脱ぐひまはない。


誰もいない廊下にひとりで早足で歩いていると、向こう側から誰かがやってきた。


ここの制服を着ておらず、カバンなどなにも持っていない男の人。


でも、人影には見覚えがあった。


磐波さんだ。


私が磐波さんに声をかける前に向こうもこちらに気づいて駆け寄ってきた。


「ま、抹里ちゃん!」


「磐波さん……」


彼もまた、私の腕を見てギョッと目を見開いた。


床に落ちてしまいそうで細く腕を流れる真っ赤な血にびっくりしたのだろう。


「ど、どうしたの、その腕。もしかして、どっかで強くぶつけたのか?」


「いえ、違います。友達が授業中に急に私の腕を掴んできて……。友達の爪が皮膚に食い込みすぎて血が出たんです。だから、早く保健室に行かないと」
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