誰も知らない彼女
そうでもしないと、大変なことになる。


私は磐波さんがびっくりしているのもおかまいなしに走って保健室に行こうとする。


しかし、血だらけになっていない腕を磐波さんに軽く引っ張られた。


グイッと引き寄せられる感覚にくすぐったくなるが、必死に気づかないフリをする。


「待てよ。俺、抹里ちゃんに話したいことがあって来たんだよ。俺が腕の傷を手当てしてあげるから一緒に保健室に行かないか?」


彼の言葉で、自分だけの時間が止まったような気がした。


なにに対して?


『手当てしてあげる』?


いや、違う。


『話したいことがあって来た』というところだ。


ここまで来たということは、よほど大きな情報をゲットしたのだろうと推測できる。


今までなにも情報をゲットできなかったからか、少し嬉しそうな顔をしている。


だけど私には、その顔がとても悲しそうに見えた。


キュッと胸が張り裂けるのを感じながら、私は小さくうなずいて磐波さんと一緒に保健室に行くことにした。


保健室にたどり着くのに、そんなに時間はかからなかった。


ガラッと開けるが、先生は出張なのか休みなのかいない。


これは運がいいのか悪いのかわからない。


ただ、ふたりきりであることに安心している自分がいる。


ダメだ、ダメだ。


今はそんなことを考えている場合じゃないから。
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