誰も知らない彼女
それはたぶん、由良がいきなり豹変してしまったのが原因だろう。


いくつかの感情が入り混じってグチャグチャになっていくのを感じ、気持ち悪くなって吐き気に襲われる。


しかし、言葉の凶器はそんな私など完全にスルーして降りかかってくる。


「じつはあいつら、昨日の夜中に死んでたんだ」


当たっていた。


私が抱いていた悪い予感は的中した。


嘘だ、とか信じられない、とかじゃなくて、すでにショックを通り越していた。


心臓に鋭いなにかが突き刺さるような感覚が嫌で仕方ない。


自分の気持ちを落ち着かせるため、自分に言い聞かせるようにこうつぶやいた。


「ふたりが……夜中に死んだ……」


「あぁ。野々村は合コン会場だった高級レストランがある繁華街の裏路地で血まみれになってて、畠は隣街の工場の中で首をつっていたらしい」


ふたりは死んでしまった。


と、ここではっとする。


あれ、ちょっと待って。


ふたりが昨夜に死んだのなら、それまでの間はどこにいたんだろう。


なんて、そんなことを磐波さんが知ってるはずないか。


「ひどい……」


自分自身にも聞こえないようにボソッと消え入りそうな声で心の底からつぶやく。


野々村さんと畠さんがどんな気持ちで死んでいったのかを想像するだけで泣きそうになる。
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