誰も知らない彼女
はっきり言って、えるはこのグループの中で一番弱い存在だった。


えるは私のグループに入るときに一回下の名前で呼ぼうとしたことがあったが、由良が『私の親友のこと、勝手に名前で呼ばないでよね〜』と言ったのを聞いて、由良が追放されるまで“さん”をつけて呼んでいた。


でも今は違う。


今このグループのメンバーは秋帆、ネネ、える、そして私。


いっちゃんは休みだし、秋帆から永久追放を告げられた由良もいない。


完全にグループのリーダーが秋帆になったのだ。


由良と性格が似ていても、秋帆は人を殺そうとはしないし、変に笑って注目を浴びたりもしない。


きっとえるは秋帆がグループのリーダーにふさわしいと思ったのだろう。


私だってそうだ。


私もずっと前から秋帆がリーダーにふさわしいと思っていたから。


その反面、由良と手を組んで若葉に嫌がらせを繰り返したことはダメだと思う。


若葉への嫌がらせはダメだと思ってるのに、心の中では若葉への嫌がらせがまだ続いていればいいのにと思っている。


できればもう少しだけ若葉に辛抱してもらいたかったけど、由良が連続殺人事件の犯人だと言ったなら、ターゲットが変わるのはごく自然のなりゆきだ。


心の中でそうつぶやいたあと、チラッと黒板の前に視線を移した。


若葉ではない別の女子がクラスメイト数人に足蹴にされていた。


足蹴にされているのは間違いなく由良だ。
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