誰も知らない彼女
由良のはずなのに、数人に蹴られている由良は抵抗せずにクスクスと笑っていた。


どうしてクスクス笑っているんだろう。


私には理解不能だ。


これ以上由良が蹴られているのは見たくなくて、無意識に若葉のほうに視線を変える。


若葉は目をしばたたかせながら、あたりを見まわしていた。


今日も自分がターゲットにされると怯えていたのか、教室で起こっていることに頭が追いついていかないせいか。


嫌がらせのターゲットが変わったのなら、以前まで仲よくしていた若葉サイドの子たちが戻ってくるのかと思っていたが、若葉の周りには誰も集まってこない。


たぶん由良を足蹴にしている数人の中に、彼女サイドだった子がいるのだろう。


ぼんやりとしながら若葉の姿を追いかけていると、秋帆に肩を叩かれた。


「……ってば! ねぇ、抹里!」


秋帆の声で意識がこちら側に引き戻されていく。


いつの間にか細めていた目を飛び出るくらいに見開いて秋帆たちのほうを見る。


心配そうに私を見つめる3人が視界に映り、慌ててごまかす。


「どうした? ボーッとして」


「い、いや、ちょっと考えごとしてただけ」


今まで考えていたことを秋帆たちにバラしたくなくて、そうつぶやいたあとパッと目をそらす。


でも逆に目をそらしたほうが怪しまれるような気もする。


き、気にしない、気にしない。
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