誰も知らない彼女
気にしたら絶対に話せなくなる。


こめかみから出てきた大粒の汗が頬をつたってくるが、頑張ってスルーする。


「は、話したいことっていうのはね……」


なんだろう。


今の秋帆たちの私を見る目がキラキラしているような気がする。


そのことに気づかないフリをして、おそるおそる3人に告げる。


「じつは……その……き、気になる人ができたっていうか、なんというか……」


こんなことを3人に話してもいいものだろうかという疑問を抱きながらも、言いたいことを3人にぶつけた。


“気になる人ができた”。


自分が言った言葉で顔が真っ赤になるのを感じた。


それと同時に磐波さんの顔がパッと思い浮かんで、熱を帯びた顔を両手で覆いたくなった。


けれど、私が顔を手で覆う前に3人が目を見開いて興奮をあらわにした。


「えー、マジ⁉︎ ついに抹里が恋に目覚めた⁉︎ やばい、これは大ニュースじゃん!」


「抹里ちゃんの口からそんな言葉が出るなんて予想外なんだけど!」


「うん、恋に目覚めたってかなりのスクープだよ! ていうか、今まで彼氏がいなかったのが不思議なんだけど!」


3人が教室全体に響き渡るくらいの声を出したせいで、クラス中の視線が一斉にこちらに集まる。


由良を足蹴にしていたクラスメイト数人も、不思議そうな顔でこちらを見ている。
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