誰も知らない彼女
やめて。
お願いだから、不思議そうな目で私を見ないで。
私もターゲットになってしまうかもしれないから。
クラス中の注目を集める自分がなんだか恥ずかしくなった。
これ以上目立ちたくないので、自分たちのことでもないのに勝手に興奮している秋帆たちを止める。
「ちょっと、声大きいよ! 言うなら、もうちょっと小さい声で言ってよ!」
このグループの中ではそんなに背は低くないほうなのに、なぜか自分が一番全体的に小さく見えた。
なぜかはわからない。
でも3人を止めることしか頭にない。
注目なんて、今は浴びたくないの。
秋帆たち3人以外のクラスメイトの反応を見るのが怖くて、ギュッと目をつぶって視線をそらす。
目を閉じる寸前に由良とバチッと視線がぶつかったが、見つめ合っていたらまた巻き込まれると思い、必死になって気づかないフリをする。
無意識のうちに耳を両手でふさいだ次の瞬間。
肩をトントンと叩かれて、パチッと目を開けてそちらのほうに顔を向ける。
私の肩を叩いたのは得意げな表情を浮かべる秋帆で、私の視界に映ったのはなぜか興奮した様子のクラスメイトたちだった。
こうなっている意味がわからなくて、眉間にシワを寄せて首をかしげる。
両手を耳から離したと同時に秋帆がクラスメイトたちのほうを指さしてささやいた。
「抹里に好きな人ができたって言った瞬間、全員びっくりしてたよ。なんで今まで抹里に彼氏ができなかったんだってね」