誰も知らない彼女
クラスメイトたちの言葉を素直に信じるのではなく、本当にそうなのかと心の中の自分に問いかけてから判断するのが、いつもの私だった。


なに? この心境の変化は。


ここで起こった出来事がきっかけで狂わされた自分の感情があらわになっていくような感じは味わったことがない。


まるで、好きな食べ物を食べてもなんの味もしないみたいに。


こんなときに好きな食べ物を渡されて食べても、味覚がマヒして砂のような味がするだけだろう。


クラスメイトたちの盛り上がっている会話になんて言って対応すればいいかわからない私は、チラッと由良のほうを見た。


自分を蹴っていたクラスメイトがこちらに注目したので、痛みに耐えながら立ちあがっている。


立ちあがると同時に、蹴られたらしい脇腹を手でおさえた。


かわいそうだとも、ざまぁみろとも思わない。


ただ由良が苦しそうな顔で立ったと感じるだけだ。


しかし、私がじっと由良を見つめていたからか、由良が目を徐々につりあげてこちらを睨んだ。


びくっと体が震える。


髪が乱れてメイクが崩れるのもおかまいなしに、すさまじい形相で私を睨みつけている。


お願い。


誰でもいいから、由良が私を睨んでることに気づいて。


そして抵抗する気を失わせるくらいに由良を押さえつけて。


私の心の底から祈っていた願いが伝わったのか、秋帆が眉をピクリと動かして由良の行動に気づいた。
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