誰も知らない彼女
だけど、秋帆が由良の行動に気づいた理由が祈っていた思いが伝わったからではなく、私を睨みはじめたときに由良が机を動かしたからだと知ったのは、それから十数秒たってからだった。


「なによ、ブス戸。あんたが入るところなんてどこにもねぇんだよ。また抹里を無理やり引っ張ってストレス発散する気なんでしょ。いるんだよね、そういうガキってさ」


また由良のことを“ブス戸”と呼んだ。


昨日の由良なら確実に怒ってつかみかかってくるだろうけど、嫌がらせのターゲットになっている限り、由良は秋帆に対抗することができないのだ。


由良もそのことを理解しているのか、握り拳を作ってギリギリと歯噛みしながらばつが悪そうに目をそらす。


気が短くてすぐにケンカを買う由良がグッと押し黙る様子に、秋帆は得意げに鼻を鳴らした。


「ふん、ざまぁみろ。自分が事件の犯人だとかわけのわからないことをキモい顔で言ったからこうなったのよ。自業自得じゃない」


腕を組みながら仁王立ちをしている秋帆の姿は、まさに女王様だ。


自分が絶対に逆らえない存在だということを強調させている。


そう思っているのは私だけのようで、ネネとえるは満面の笑みを浮かべて秋帆をたたえた。


「いや〜、秋帆って最高だわ。やっぱり秋帆は抹里ちゃんの王子様じゃない?」


「うんうん! さすが高島さんだよ!」


悪口のオンパレードであるにもかかわらず、ふたりはそのことに気づかないまま話しかけている。
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