誰も知らない彼女
このクラスが険悪化していっていると感じているのは私だけ?


由良と若葉以外のクラスメイトは全員笑顔だけど、その裏の感情が読み取れそうで怖い。


その裏の感情がまるで嫌がらせを受けている由良を強く突き放すかのような威力のあるものだと感じたからだ。


事態についていけないのは私と若葉だけ。


嫌がらせを受けている由良は自分のせいで起こした出来事をしっかりと受け止めている様子だ。


なにも言えない私をスルーして、秋帆がネネとえるの言葉に対しておかしそうに笑った。


「え〜、本当〜? だけどやっぱり私は抹里の王子様じゃないって。抹里の王子様はその気になった人じゃないの?」


自分は王子様じゃないと言いながらも、彼女はまんざらでもないような笑顔を浮かべている。


日に焼けた肌がちょっとだけ赤くなるが、それはすぐだった。


自分の彼氏が行方不明になったことが頭をよぎったせいか、秋帆の顔色が曇った。


秋帆の表情の変化にいち早く気づいたネネが、私たちだけを包む重い空気を破ろうと試みる。


「大丈夫だって、秋帆。彼氏はすぐに秋帆のもとに帰ってくるって! そんなことばっかり考えてたら、絶対に前に進まないでしょ?」


そうだ。


過去の出来事を悔やんだって、なにもいいことは起きない。


前には進まないのだ。


いつのことだったか、レストランの帰りに由良にかけた言葉だった。


その言葉は確実に由良の心に響いたはずなのに、その日を境に由良は豹変した。
< 211 / 404 >

この作品をシェア

pagetop