誰も知らない彼女
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それから時間はどんどん過ぎていき、気づけば放課後になっていた。
部活に向かう生徒、カバンを持っていく生徒がぞろぞろと教室を出ていく。
そんななか、一部のクラスメイトがひとりの女子を囲んで罵声を浴びせている。
そのひとりの女子は言うまでもなく由良だ。
今日は秋帆たちと一緒に帰ろうかと考えたけど、秋帆たち3人は一部のクラスメイトと一緒になって由良へ容赦ない罵声を次々に浴びせていた。
こんな状態だったら3人とは帰れないな。
3人と帰るのはあきらめて、今日はひとりで帰ることにしよう。
カバンを肩にかけて教室のドアに向かった、ちょうどそのとき。
「あっ……!」
突然、ドアの向こうから誰かがひょこっと顔を出してこちらを見た。
その人物の顔が視界に入った瞬間、思わず声をあげてしまった。
だって、そこにいたのはまぎれもなく磐波さんだったから。
彼の姿を見るだけで、昨日の保健室での出来事が頭の中でフラッシュバックしてくる。
自分の顔が耳まで真っ赤になっていくのを覚えながら、さっと視線を落として別のドアのほうに向きを変える。
反射的に、なんとなく。
今、磐波さんと顔を合わせづらいんだ。
なんて言葉をかけたらいいのかもわからないし。
気づかないフリをしてスタスタと歩き、熱を帯びる頬を手でおさえながら階段を下りていく。