誰も知らない彼女
私が下りている階段は生徒があまり使わない西側の階段なので、誰ともすれ違うことなくひとり歩く。


2階と3階の階段の踊り場まで来た、次の瞬間。


ドンッと背中を押されたような感覚に襲われ、視界がグラッとゆがんだ。


誰が押したのかはわからないけど、隣で誰かが軽やかな足取りで歩いていく音が聞こえ、心が焦る。


私を押したのは誰?


なんで私の背中を押したの?


心の中の問いかけに返事をするものは現れず、ただ自分の体が落下しそうになるだけだ。


あぁ、もう終わりだな。


ここから落ちたら、まず足のケガはまぬがれない。


運が悪ければ死んでしまうかもしれない。


どちらにせよ、落ちたら私の体と心に深いダメージを負うことに変わりはない。


生徒があまり使わないということが、逆にあだとなった。


目からあきらめの涙を床に落とし、自分の体が落下するのを待つ。


まるでスローモーションのようになかなか落下しない体にいら立ちを感じるが、できることはそれに耐えて待つだけ。


膝が階段の段差で崩れそうになった、まさにそのとき。


ガシッとなにかが私の手首を掴み、私の体はそちらのほうへとかたむいた。


残り数センチで足が宙に浮きそうになったのが嘘みたいだ。


ふわっと大きなものに抱き寄せられ、心臓がドクンと鳴った。
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