誰も知らない彼女
あたりを見まわして磐波さんらしき人の姿がないことを確認し、ワゴンの中にいる店員さんに声をかける。


「すみませーん」


思ったよりも声が小さくなった。


そのせいなのかわからないが、店員さんはアイスを作るのに夢中で、こちらの視線にまったく気づいていない。


仕方なく、もう一度声をかけてみる。


「あの、すみませーん!」


今度はいつも出す声よりも高くなった。


私の高い声でようやく我に返ったらしく、その店員さんが慌てた様子で私を見る。


店員さんが慌てていたことに気づかないフリをして、私はアイスを注文する。


私からの注文を聞いたあと、店員さんが再び慌てた様子でさっき使っていた調理用具を雑にしまう。


そして、真剣な目つきでコーンにアイスを盛りつけていく。


慌てた姿と、今見ている真剣な表情をしている姿が対照的に見える。


店員さんがアイスを丁寧に盛りつけている間に、財布から小銭を取りだしてレジスターの前に置く。


「お待たせいたしました。こちらがご注文のアイスです」


しばらくして店員さんがアイスの乗ったコーンを私を差しだしてきて、レジスターの前に置かれた小銭を手に取る。


金額が正確かを確認したあと、ぎこちない感じでペコッと頭を下げ、「ありがとうございました」と小さくつぶやいた。


そんな店員さんの言動を軽くスルーして、近くにあるベンチに腰かける。
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