誰も知らない彼女
「なんでここに……⁉︎」


近所に住む、いとこの柘植 悠汰(つげ ゆうた)だ。


私よりもふたつ年上で、地元の大学に通っている大学1年生。


お母さんの妹、つまり私のおばさんを母親として生まれた悠くんは、小さいころから私とよく遊んでいた。


小学生まではほぼ毎日顔を合わせていたけど、悠くんが中学生になってからはなかなか会えなくなったのだ。


お互いが気づいても手を小さく振るだけ。


中学のときは顔をあげずに挨拶したから、悠くんの顔を見るのはひさびさだった。


小学生のときには真っ黒だった肌が、今ではすっかり真っ白になっている。


身長も伸びていて、手足も長い。


私と会わない間になにかスポーツでもやっていたのだろうか。


小さいときの可愛さにあふれた顔も大人っぽくなっている。


すっかり変わったな、悠くん。


「よっ。こうやってちゃんと顔合わせるの、ひさしぶりじゃね?」


手を小さくあげて笑顔を見せる悠くん。


笑ったときは昔と変わらない。


今見せている笑顔が、昔よく私に見せてくれた笑顔と重なるのを感じる。


「うん、そうだね」


だけど保健室での磐波さんにされたことを引きずったままでいるからか、悠くんの前でも感情を表に出せない。


今は関係ないでしょ。


今ここで悠くんと会ったことと保健室での出来事は違うものなんだから。
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