誰も知らない彼女
「いひゃいよぉ……」


頬を悠くんにつねられているせいで変な声が出るが、ほんの少しだけ抵抗する。


私が抵抗しているのもおかまいなしに、悠くんは口角を上げてニコッと笑った。


「なんだよ。そんなことで悩んでるなんて、全然抹里らしくないぞ。いつもの抹里なら、誰かを傷つけないように黙ってるのに。って、そんなこと言ったら笑えてきたんだけど……」


つねられて変な顔になっている私に笑っているのか、小さなことで悩む私に笑っているのか。


その答えはわかる。


だけど、今の悠くんの笑顔がなにを表しているのかわからない。


私の中で答えを出してほしくないからかもしれないけど、その答えが透けて見えそうで怖い。


「は、はにゃしてよ〜……」


ミントアイスが少しずつ溶けていくのもおかまいなしに、両手をブンブン振って抵抗を試みる。


いくら振ってみても年上の男の子の力にはかなわないせいか、私の頬をつねっている手が離れることはない。


それどころか、悠くんはつねってないほうの手でお腹を抱えて大爆笑している。


「はははっ……抹里の変顔マジウケるんだけど!」


自分で私の頬をつねっているくせに、自分が作らせた表情を変顔だなんて言って笑うなんて。


でも、悠くんに笑われるのは悪い気分ではない。


彼の笑顔を見るだけでこちらも幸せになるくらいだから、気分が悪くなるわけがなかった。


「み、ミントアイス、溶けちゃうよ〜……」


頬に帯びる痛みに耐えながらそうつぶやく。
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