誰も知らない彼女
せっかく買ったばかりのアイスをほとんど口にしないまま溶けてしまうのはもったいない。


すべて溶けてしまう前に悠くんに告げると、悠くんがギョッとした顔で頬から手をパッと離した。


「ごめん。頬つねったらおもしろくて、つい。マジごめん」


彼のせいでアイスが少し溶けてしまったけど、眉をハの字にしてこんなふうに謝れると、こっちが悪いことをしたような感じ。


許してしまうのだ。


私、いとこに弱いのかもしれない。


手が頬から離れたのを見た直後、アイスをちびちびと口に運び、ばつが悪そうに視線をアスファルトに落とす。


そのときにアイスの溶けた部分が指先についてペロッとなめた。


あちこちに溶けた部分が指について、自分で自分の指を何度も何度もなめなければならない事態に。


焦ってなめる私に、しょんぼりしていた悠くんが再び笑いはじめた。


「ははっ、やっぱおもしれぇ……! 急いでアイスをなめる姿マジウケる!」


溶けだしたアイスをなめる私を見ていたらしい。


そのことに気づきながらも軽くスルーして、アイスをなめ続ける。


上に乗せられたアイスがあと少しですべてなくなるというとき、悠くんが真顔になってこちらに顔を向けた。


あまりに突然のことだったので、びくっと体を震わせてしまう。
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