誰も知らない彼女
他人から優等生だと言われてきた私でも、恋というものはするんだ。


心の中でそうつぶやいてコーンをひとくちかじったあと、悠くんがどこか悲しげに笑った。


「そう、恋だよ。俺もそういう気持ちを抱いた経験をしたから絶対だぞ。こんなふうに周りにニコニコと笑顔を振りまいてる俺でも、恋はするもんだからな」


そうなんだ。


自分も同じ経験をしたから、はっきりと恋だと言うことができたのか。


ていうか、悠くんも恋したことあるんだ。


いつも男友達に囲まれたイメージの悠くんが誰かに恋するなんて、とてもじゃないけど想像できない。


と、不意にこちらに向かってくる足音がして、そちらのほうを見る。


それは悠くんも気になっていたらしく、表情を戻して私と同じほうを見る。


視線を向けた先にいたのは、呆然とした顔で私たちを見ている磐波さんだった。


目を見開いて口をあんぐりと開けていた。


だけどそれは一瞬で、私とバチッと視線がぶつかった直後にさっと視線をそらして悔しそうな表情をしながら歩き去っていった。


「あっ……!」


慌てて立ちあがって磐波さんを引き止めようとするが、私が追いかけようとしたときにはすでに磐波さんの姿が見えなくなった。


どうしよう。


磐波さん、絶対に誤解している。


ベンチに座って話している私と悠くんが、磐波さんには仲のいいカップルに見えたのかもしれない。
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