誰も知らない彼女
せっかく異性とのコミュニケーションを取れるチャンスを与えてくれたんだから、このチャンスを棒に振るのは申しわけない。


どっちかというと私は男子よりも女子と話すことが多いから、男子と話すことに慣れていない。


若葉にチャンスを与えた気はなくても、私は由良や秋帆のように大人になりたいんだ。


「あっ、嫌だったりなにか外せない用事があったら断っても……」


「行く。誰も誘える相手がいないなら、私行くよ」


慌てて頭をあげて両手を顔の前で振る若葉の言葉をさえぎってそう言った。


わけもなく断ったら若葉がかわいそうだ。


力強くうなずいてみせると、若葉が嬉しそうな笑顔を見せた。


「ありがとう榎本さん。じゃあ、今週の土曜日の午後5時に学校近くの駅前で集合でいい?」


「うん、いいよ」


私が迷わずにうなずいたあと、若葉は純粋な笑顔を見せて踊り場をあとにした。


しかし、合コンか。


勢いでついオッケーしちゃったけど、本当に大丈夫かな。


胸に手を当てて意味もなく呼吸を整える。


すると、階段の上から人影が見えて、その正体に驚きを隠せなくなる。
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