誰も知らない彼女
びくっと体を震わせる。


やばい。


ここにネネとえるがいないかどうかをたしかめる前に由良に見つかってしまった。


バチバチと火花のような痛い視線を向けてくる由良にどういう反応を返せばいいかわからず、足を引きずってあとずさる。


やめて由良、そんな顔で私に近づかないで……!


しかし心の叫びが由良に届くことはなく、猛スピードで私のもとに駆け寄ってくる。


しかもまた腕を掴もうとしている。


鬼のように長く伸ばした先の鋭い爪がギラギラとして、刃物よりも恐怖感を漂わせている。


私の腕に血が出たあとも由良はまだ爪を伸ばしているらしく、爪を切った跡が見あたらない。


私が体を震わせたままでも由良はためらうことなく腕に向かって手を伸ばしてくる。


左腕に向かって。


まだ包帯をほどけない状態の左腕をとがった爪を持つ手に掴まれたら、痛みだけでは済まされないかもしれない。


「抹里……!」


うなり声をあげて私の腕を掴もうとしている由良。


私はそんな由良の手をバッと振り払った。


反射的だったが、親友の手を勢いよく振り払った。


さらにそのときに由良の手の甲をパシッと叩いてしまった。


由良の手の甲が、だんだんと赤みを帯びていく。


こんなことをされるとは思っていなかったからか、由良は目を見開いて呆然としはじめた。
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