誰も知らない彼女
だって、その人物は保健室にいたはずの磐波さんだったから……。


「い、磐波さん……⁉︎」


私の言葉で、由良を含むクラスメイト全員が驚きをあらわにした。


驚くのも無理はない。


私服姿で、この学校の生徒ではないはずの磐波さんが、教室の前に立っているから。


しかし、クラスメイトが驚きを隠しきれなかった理由が別にあったことを知ったのは、心の中でつぶやいてから十数秒後だった。


「今、“磐波”って言ったよね……?」


「嘘でしょ? “磐波”って、あの“磐波”?」


「噂で聞いたことはあるけど、まさかあの人だったなんて……」


「ほら、退学処分になった友達をかばって不登校になった先輩でしょ?」


「そうそう。それで自殺しようとしたことがあるんだって」


えっ、なに言ってるの?


ここにいるクラス全員が、磐波さんを最初から知っていたみたいな言い方だ。


いや、『みたい』じゃなくて本当に知っていた感じだ。


視線を磐波さんから由良に向ける。


指が数本入るくらいに口を大きく開けており、目をしばたたかせている。


少なくとも由良は磐波さんの正体を知らないはず。


レストランに行って偶然会ったとき、由良は磐波さんを見て目を輝かせていた。


そのとき、由良は磐波さんだと気づかなかったってこと?
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