誰も知らない彼女
「……あぁ、その人のことね。3年の先輩に磐波っていう人はたしかにいるね。でもつい先日まで不登校だったみたいだから、その人がいることを知らないっていう生徒はクラスに何人かいるけど」


やっぱりいたんだ。


ずっとおかしいと思った。


はじめて磐波さんが学校に来たとき、なんの迷いもなく私のクラスに向かおうとしていた。


まるで学校の地図を最初から持っていたみたいに。


学校がある場所なんて聞いてこなかった。


その様子を見ておかしいと思わないほうが変だ。


なんで私はそんなことに気づかなかったんだろう。


でも、そうだとすると疑問に思う点が浮きあがってくる。


「なんで制服じゃなくて私服姿だったんだろう」


「さぁ? あの先輩は退学処分を食らった友達の処分を軽くしてくれないかって頼んだみたいだけど、結局ダメだったの。それがショックで学校に来なくなって、手首を切って自殺しようとしたんだって」


今日聞いたクラスメイトの会話は本当のことだったんだ。


磐波さんは学校の先輩で、友達をかばったせいで不登校になり、自殺未遂をした。


やっとで磐波さんの行動の謎が解けた。


なぜ私服姿だったのかはいまだにわからないけど。


「抹里ちゃんは知らなかったんだ。その人が学校の先輩だったってこと」


知らなかった。
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