誰も知らない彼女
ネネのその言葉が、私の意識を一気に現実に引き戻した。


それと同時に背中にベタッとした汗が流れる感覚が襲ってくる。


あきらかに様子がおかしい私に、やっとでネネがあることに気づいたらしい。


「抹里ちゃん、もしかして……その人のことでなんかあったの? たとえば、先輩が自分の恋した相手だったー、とか」


図星だ。


いや、挙動不審になっている私を見ておかしいと思わないほうが逆におかしい。


ここは素直に認めるしかないな。


「えっ、まさか……」


「うん、そのまさか。何か月か前に合コンに行ったときに会ったんだ。それ以来学校や他の場所でふたりで会ったりしたの。でもそれは、あの人が学校の先輩だとは思わなかったから……」


自然と早口になった。


思っていることを口にするとなると、やはりためらってしまうものだ。


しかも磐波さんのことを“あの人”と呼んじゃったし。


だけど、一度言った言葉をなかったことにすることなんてできなくて、カバンを持つ手に力がこもる。


私が言ったさっきの言葉に、ネネはどんな反応を見せるんだろう。


自殺未遂をしたことがある先輩に恋をしたなんて。


なんて気持ち悪いの。


そう感じて、ネネはもう二度と私に近づかないかもしれない。
< 266 / 404 >

この作品をシェア

pagetop