誰も知らない彼女
握り拳をギュッと作って、下唇をキュッと噛みしめていると、ネネが意外な言葉を口にした。


「……そうなんだ。でもあんなカッコいい人に恋するなんて、抹里ちゃんもやっぱり乙女なんだね」


乙女?


それってどういうことなんだろう。


ネネの言葉の意味がわからなくて、首をかしげて立ち止まってしまう。


ゆっくり顔をあげた直後、ネネの屈託のない笑顔を見えてしまったから余計にわけがわからなくなる。


私が抱いている“乙女”という言葉の解釈と、ネネの解釈に違いがあるということなのだろうか。


もしネネが“乙女”という言葉を違う意味で言っているなら、ここでちゃんと正しておく必要がある。


「でも、私はネネちゃんが思ってるほど乙女じゃないよ。見た目も頭も運動神経もよくないし、自分に自信ないし」


これは心から思っていることだ。


可愛くなんかない。


頭の出来はいいわけでもない。


運動も、好きでも得意でもない。


なのに、なんで私がクラス全員に囲まれたり、磐波さんのような人に好きだと言われるのだろう。


自分が嫌になる。


でも、その気持ちがエスカレートして、若葉や由良のように狂った言動をするほどのことはしない。


狂った言動はしない?


なんでそんなこと言いきれるの?
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