誰も知らない彼女
そんなのは嘘だと思って目を数回こすってから再びドレッサーの鏡に目を向ける。


映っているのは当然のことながら、まったく同じ服装をしたもうひとりの自分。


しかし、自分の姿以外に人影らしいものはなにも見あたらなかった。


ぶるっと身震いがする。


やっぱり物音に敏感になっていたから、人の気配が全然ない場所にしても誰かがいるのではないかと怯えていただけか。


自分を落ち着かせるために息をふぅ、と吐きだして鏡から目をそらし、ベッドに寝転がることなくゆっくりと椅子に座る。


「はぁ……」


熱があってボーッとするせいかなんだかだるい。


眠くなくてもベッドで寝たほうがいいのかな。


椅子に座ってからわずか数十秒で立ちあがり、めまいを起こしながらもなんとか体のバランスをたもった。


と、そのとき。


ピーンポーン。


玄関のほうからインターホンが鳴る音がした。


インターホンの音が耳に届いた瞬間、私はびくっと体が震えるのを感じた。


まさか、この間のように知らない誰かが私に向かって出てくれって叫ぶんじゃ……!


急いでモニターの電源を入れて、誰がインターホンを鳴らしたか確認してみる。


モニターの画面に映っている人物を見て、ほっと胸を撫でおろした。


私と同じ学校の制服を着た、見覚えのある顔の女の子。
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