誰も知らない彼女
でも通話モードにしたのなら話すべきだと思い、仕方なくスマホを耳に当てる。


「……はい」


『おー、抹里! すげぇひさしぶりじゃね?』


「そ、そうだね」


『……あれ、どうした? 元気ないみたいだけど』


最初のひとことのトーンが低かったせいか、さっそく私に疑問を投げかける悠くん。


アイスを食べたとき以来話すことがなかったから気まずいんですよ、なんて言えるわけがない。


なんて言おうか。


視線を下に向けて考えていると、ある考えがパッと頭に浮かんできた。


「最近あまり体調がよくなかったみたいで。一週間前に風邪ひいて学校休んだし」


『そうだったのか。今は大丈夫なのか?』


「大丈夫だよ! 風邪はもうとっくに治ったし」


『そっか、ならよかった』


ほっ。


一週間前に風邪をひいたって言っても悠くんなら見破るだろうなと思ったけど、バレなくてよかった。


声のトーンを低くしたのはわざとじゃなくて無意識だけど、風邪で納得してもらえて安心した。


安堵の息を悠くんに聞かれないように吐いた。


「それよりも悠くん。なんで私に電話を?」


一番の疑問はそれだ。


理由がわからなければ、いつまでも疑問だけが頭についてまわる。


頭の中がこんがらがりそうになるから、そこだけはせめてはっきりしてほしい。
< 315 / 404 >

この作品をシェア

pagetop