誰も知らない彼女
まるで心の中でつぶやいたことが聞こえたかのように、悠くんがはっきりと説明してくれた。


『あぁ、じつは今日大学が休みでさ、ひさしぶりに抹里と話がしたいから会わないかと思って』


話がしたいから会いたい。


悠くんが言いたいことはそういうことだろう。


そっちは会いたいと思っているのかもしれないけど、私は会うのが気まずいんだよ。


アイスを食べながら悠くんと話しているところを磐波さんに見られて誤解されたままなんだよ。


それは悠くんのせいではないけど、見られたと思って追いかけて、磐波さんの姿が見えなくなったとき胸がキュッと痛くなって悲しくなったんだよ。


気まずいと思う理由はそれだけじゃない。


私が磐波さんを追いかけたときに聞こえた、切なげで苦しげな悠くんの言葉。


なんて言ったかは思い出せないけど、こういうときになって悠くんの気持ちが見えてしまいそうだ。


血のつながったいとこ以上の関係になってしまうのではないかと思っているから気まずい。


だからといって会いたくない理由にはならない。


言いわけをしたら逆効果なことくらい十分わかっているけど……。


返事に悩んでいる私を軽くスルーして、悠くんが話を続ける。


『好きな子がいるって同じサークルのやつらに言ったら……って本当に会って話したくなったな』
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