誰も知らない彼女
涙が出てきそうになるのをこらえてグッとついさっき作った握り拳に力を入れていると、悠くんがなにも言わない私に対して疑問を投げかけてきた。


『あれ、どうした? もしかして抹里、今も体調悪いのか?』


ギクッ。


黙って考えていたから、体調が悪いと思われてしまったようだ。


風邪はもうとっくに治ったのに。


「ぜ、全然! もう大丈夫だって! でも、念のため休んでおけって言われたから今は家にいるけど」


『えっ。今、家にいるのか? だったら今日は昼飯を一緒に食べられそうにないな……』


なぜか最後に言ったひとことにさみしさと苦しさを含ませる悠くん。


なんで私が言葉を返さないときや誘いを断るときにそんなさみしそうな口調で言うの?


教えてほしいけど、その気持ちの正体に気づいてはいけないと心が叫んでいる。


一番言いたいけど、一番言いたくない疑問なのかもしれない。


心の叫びを全力で押しのけるように、明るい口調で元気そうに言葉を返した。


「ご、ごめんね。私、本当は外に出たいけど、もし外に出たら殺されてしまうかもしれないんだ」


『殺される? どうしてだよ』


「私が通う学校でクラスメイトが死んだし、この近くで連続殺人事件が起きているの。その犯人はまだ捕まってないし、被害者が私の知ってる人ばかりだから、犯人は私を次に狙うターゲットにしてるかもしれないの」
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