誰も知らない彼女
その事実を聞いたとき、気持ちをおさえきれなくなって声をあげながら泣いたっけ。


自分から裏切ってしまったという後悔と、親友を失った絶望感から涙が出たんだ。


1週間前、この大通りで由良は血まみれで倒れ、搬送先の病院で死んだ。


病院に連れていかれる前に染み込んだ血痕は雪に邪魔されて見えない。


犯人はそれを狙ってこの時期に由良を殺したのだろうか。


そして今日、私もここで死ぬのかもしれない。


由良が死んだ場所で……。


わけもなくふっと上を見あげたとき、頬にひと粒の雪が落ちてきた。


雪の温度は低く冷たいので、人間が触れると溶けて水に変わってしまう。


そんなことは頭で理解していても、頬についた雪が気になってつい頬を手でおさえてしまう。


当然のように頬についた雪は一瞬で水に変わり、手袋に染み込んで消えた。


溶ける前の雪は、まるで今の私の感情を表しているかのようだ。


静かに降っているけど、そのぶん泣いているような小粒の雪。


視線をあげて星も見えない夜空を見つめはじめたそのとき。


私のうしろで聞こえるいくつかの足音のうちのひとつが真うしろでピタッと止まった。


いったい誰だろう。


そう思いながら音がしたほうに目をやると、そこにいたのは予想外の人物だった。
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