誰も知らない彼女
その事実が頭に重くのしかかってくる。


そんなことなどおかまいなしに、幹恵の話は続いていく。


ここでバッドエンドになるのは目に見えている。


「でも私が中1のとき、両親が殺された。ひとりになった私は親戚に引き取られた。悔しかった。親孝行する前に死んじゃうなんてって。そこからよ、人に殺意が芽生えはじめたのは」


両親が殺し屋だったら、警察の人たちも警戒して、誰かが殺される前にやっておかないと死者が出続けると判断するだろう。


そう思ったが、幹恵が涙を目に浮かべて歯を食いしばっているのを見て口をつぐんだ。


思ったことを言えば、ただでは済まされない。


心のブレーキがかかって助かった。


「冷静になって考えてみれば、私の判断と行動に間違いはいくつかあったわ。いろいろ思い浮かぶけど、一番後悔したのは榎本さんに使ってなかったスマホの番号を教えたことね。本当の番号を教えてたら、少なくともいじめられてなかっただろうし。クラスメイトから嫌われることもなかっただろうし」


“使ってなかった”スマホの番号、か。


ということは、今彼女が使っているスマホとは違うスマホの番号を教えたってことなのか。


勝手に納得して心の中でうんうんとうなずく。


「あぁ、言い忘れたことがあったわ。榎本さんは知らないと思うけど、じつは私が殺した金髪男、八戸さんの初恋の相手だったんだって」
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