誰も知らない彼女
だけど、やっぱり幹恵に殺されたくない。


他に逃げる方法はないのか。


あたりに目をやるが、幹恵に味方しているかのように誰もこちらを見ていない。


なぜか歩道橋を渡る人がひとりもいない。


どうして?


自分たちの周りに誰も寄せつけないように見えて、背筋が寒くなる。


この世界に魔法や魔術などあるわけがないのに、まるで幹恵が私には見えない魔法を使っているかのような感じだ。


どうすれば……。


動揺して焦りはじめる私に、幹恵が言葉の追いうちをかける。


「誰も助けに来ないわよ。私が持ってたものを全部奪ったあんたに救いの手が差しのべられるわけがないんだから」


そんな……。


はっきりと言われると、本当に誰も来ないような気がする。


助けじゃなくてもいいから、誰かここに来て!


ギュッと目をつぶりながら心の中で祈っていると、近くから足音が聞こえてきた。


誰か来たのだろうか。


いや、来るわけないか。


だって今、幹恵にはっきりと『誰も助けなんて来ない』って言われたんだもん。


不幸な私目のの前に救世主が現れるなんて、そんなことがあるわけない。


大通りへと続く信号の前で見覚えのあるの姿を見たけど、私のほうには来なかった。
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