誰も知らない彼女
ごくんと唾を飲み込み、通話モードにする。


「も、もしもし……」


『おっ、抹里? よかった、電話に出てくれて』


「悠くん……」


スマホ越しでほっと安堵するような息が聞こえてきて、こっちもなぜか安心してしまう。


さっきまでネネを相手にして追い払ったことが悠くんにバレないように、怪しく思われない口調でしゃべる。


『ごめんな、この間は。抹里の気持ちも考えないで勝手なこと言っちゃって』


「ううん、気にしないで。悠くんが悪いわけじゃないから」


『よかった。もし俺の言葉で抹里が許さないって言ったら嫌われるだろうなって思ってたけど、嫌いにならなくてよかった』


「嫌いになるわけないよ。だって悠くんにとって私は、本当のことが言える存在だもん!」


『抹里……。やっぱお前、いいやつだな。こんな俺に味方するなんて抹里だけだよ。嬉しい……』


すすり泣くような声が聞こえたそのとき。


突然、スマホ越しに誰かの声がボソボソと聞こえてきた。


この声は悠くんのものじゃない。


今、悠くんがいるのは家じゃない……?


「ねぇ、悠くん。今思ったんだけど、悠くんはどこにいるの? もしかして、大学が忙しくて帰れないとか?」


もしそうだったら、向こうから聞こえる別の声は友達かサークル仲間のひとりだと推測できる。


しかし、悠くんの答えは予想もしていないものだった。
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